和田秀樹氏講演会「いつまでも活躍できる脳をつくる」
人の話を聞くのは面白い
日本全国津々浦々、現代ほど毎日のように講演会、セミナー、研修、カンファレンスが開催されていた時代が、かつてあったでしょうか?
知らんけども。
はい、また面白い講演会に行ってまいりましたので、このエントリーにてご報告兼整理します。
会社で三菱UFJリサーチ&コンサルティングが運営するSQUETというサービスに登録しております。
このサービスでは、同社が展開する各種有料研修の他に、無料の講演会があり、参加することができます。
今回、まったく仕事に関係のないテーマでしたが、興味があったので有給休暇をとって参加してまいりました。
人の話を聞くのは好きなので、わざわざお休みとっても聞きに行きます(笑)
勘違いから生まれたセレンディピティ
実のところ、申し込んだ段階では、講師の方を勘違いしておりました。
以前、「プロカウンセラーの聞く技術」という本を読んだことがあるのですが、この本の著者が今回の講師だと思い込んでしまいました。
こちらの先生は東山紘久という方なのですが、今回の講演は和田秀樹先生。
どちらも臨床心理士という肩書をもつ精神医学の先生ではあるのですが…。
なぜ勘違いしたのかは全くわかりません…。
結果的には非常に面白いお話が聞けたので、これもひとつのセレンディピティかなと。
講演テーマが年配向け?
講演のテーマですが、明らかに年配向け、ですよね。
これも講師を勘違いして勢い申し込んだが故に、です。
聞き始めたらぐいぐいと引き込まれましたが、最初は一時間半、退屈しないかと心配でした。
しかし、大手シンクタンクが主催する講演会ですから、講師の方も選りすぐり。
結果論ではありますが、心配する必要などなかったですね。
和田先生の話し方も砕けた感じで、ちょいちょい時事ネタを入れながらの飽きさせないトークも流石。
臨床心理士というと普段患者の話を聞く側ですが、人の話を丁寧に聞いていると、自分の話す力にもなるのかもしれませんね。
活躍できる脳をつくる
このテーマを、三つに分けてお話しいただきました。
レジュメから抜粋すると
- 人は感情から老化する
- 脳を若々しく保つ習慣術とその意味
- いつまでも活躍できる脳の使い方
以下、ざっくりと説明していきますね。
人は感情から老化する
人は老いても、使っている部分の能力はそう簡単には落ちません。
ですが、使わなかった際の衰えが激しくなるのだそうです。
たとえば骨折。
若いうちは一ヶ月入院しても、骨がくっつけばすぐに動き回れます。
ですが70歳も過ぎると、一ヶ月で衰えた筋力を取り戻すためのリハビリは大変なものです。
また、下手をすればそのまま寝た切りです…。
ですので、怪我をしないように毎日散歩したり、運動することが欠かせないのですが、この「散歩しよう」、「運動しよう」という感情が、前頭葉の衰えにより減退するのだそうです。
つまり、老いは身体よりも、脳からくるもの、というわけです。
ですから、「いつまでも活躍できる脳をつくる」必要があるんですね。
脳を若々しく保つ習慣術
老化する脳、前頭葉をどのようにして食い止めるか。
これも、運動と同じで使い続けるのがよいそうです。
人間は意識して脳の一部分を使うことはできませんが、単純計算や音読をしているときに、前頭葉をよく使うそうです。
百ます計算の効用
百ます計算が流行っていますが、これについてはひとつ面白いエピソードを紹介していただきました。
百ます計算が世に出ることになったエピソードです。
百ます計算を有名にしたのは陰山英男先生。
兵庫県の朝来市にある小学校の先生で、子供達に百ます計算をさせていたそうです。
名前の知らない地域なので検索したところ、天空の城、日本のマチュピチュと呼ばれる竹田城のある町なのですね。
googleで見ても、かなり田舎なのがわかります(失礼)。
田舎の学校なので、塾なんてありません。
学校と自宅での勉強が全てです。
その卒業生18人が、中学、高校を卒業し、大学に進学します。
このとき国公立の大学に進学したのが、なんと18人中8人!
医学部に進んだ子もいたそうで、この驚異の進学率の裏には、百ます計算があった、とのこと。
私は百ます計算が流行っているのは知っていましたが、ボケ防止のものだと思っていました。
これを聞いてしまったら、習慣に組み込まない手はないですね…。
前頭葉は感情を司る
だいぶ話が逸れてしまいましたが、前頭葉を若く保つ方法。
もう一つは、前頭葉が衰えた時にどうなるか、というところから逆算します。
前頭葉が衰えると、自主性がなくなるそうです。
ロボトミー手術も前頭葉にメスを入れる手術でしたが、統合失調症には一定の効果を見せたものの、無気力や集中力低下といった思わぬ副作用がありました。
「カッコーの巣の上で」という映画をご存知ですか?
アメリカンニューシネマと呼ばれるカテゴリの中でも人気の映画です。
ジャック・ニコルソンの怪演がキラリと光る映画です。
誰も手のつけられない悪党として描かれる主人公ですが、ついにロボトミー手術を受けさせられ、それ以降はまったく人が変わったようになってしまいます。
これを見るだけでも、ロボトミー手術の恐ろしさ、前頭葉の重要さがわかります。
脱ルーティン
またも逸れてしまいましたが…、そのような自発性、感情を司る前頭葉を訓練するには、「いつもと違うことをする」これがよいそうです。
歳をとると、もう若くないから覚えられない、という方、いらっしゃいますよね。
私の両親も、パソコンのごくごく簡単なことすら「やって!」と言います。
覚えが悪くなっているのが先にあるのではなく、自分でやらなくなって、前頭葉が老化して、使わない記憶力も衰える、このサイクルが脳の老化なのでしょうね。
ですから、具体的には…
- いつもと違う店に行く
- 散歩コースを変えてみる
- 同じ著者の本ばかり買わない
- ルーティン化しない
- 右の人の本を読んだら、左の人の本も読んでみる
といったことをするのがよいそうです。
これ、若い人にもあてはまりますね。
男性ホルモンと不倫
それから、またまた余談。
男性ホルモンについてもお話があったのですが、男性ホルモンが高い人は共感力が高い、という調査結果があるそうです。
男らしい人が優しいのは、男性ホルモンが強く相手に共感するから、と言われれば、納得です。
でも男性ホルモンが強い人は性欲も強いですよね。
この二つを合わせると、優しい男性は不倫しやすい、だそうです(笑)
まず思い浮かぶのは「不倫は文化」のあの人。
確かに優しいですよね(笑)
いつまでも活躍できる脳の使い方
今と若い頃との違いは?
歳をとるとなかなか覚えられなくて、といいますが、一つは上記の通り、前頭葉が弱まっていることで覚えようとしないことが原因。
もう一つ、当たり前に若い頃と違うことがあります。
シンプルで、そりゃそうだ!な答えなのですが、目からウロコです。
小学校〜大学までは、予習して、授業を受けて、復習して、塾へ行って、テストを受ける。
一つの内容で、タイミングをずらしてこれだけ何度も繰り返していたのです。
今はどうですか?本を買って読み終えた後、二度、三度と読み返しますか?
「読んだんだけど、覚えてないなぁ〜」当たり前です。
こうならないためには、アウトプットが必要。
- メモを取る
- 人に話す
- ブログに書く
- 書いてあることを実践してみる
- 受け売りでも良いから話題にする
これだけすればちゃんと覚えていますし、記憶力が落ちているわけではないことが実感できると思います。
また、効率よく記憶するには、夜に勉強するのが良いそうです。
最近は、午前中、特に起きて2時間をゴールデンタイムと呼び、作業効率のよい時間帯だといわれています。
寝る前とゴールデンタイム、こういった脳みその特性を生かすことも、脳みそのアンチエイジングを負担なく行うコツですね。
無理に百ます計算して、ブログに書いて、なんていうのは、面白くないですし、本末転倒です。
それに、脳みそが興味を持っていないと判断すると、これもまた脳にはよくないと聞きます。
効率よく、疲れないようにやることも、この習慣を続けるコツでしょう。
年齢に応じた知識との向き合い方
もう一つ、60歳を過ぎてからの勉強法としては、アウトプットを中心とするのがよいそうです。
和田先生は外山滋比古先生とも親交があるそうで、「定年後の勉強法」について尋ねたところ、「そんなとしから勉強するな!」と怒られたそうです。
この場合の「勉強」はインプットの事。
読書でもなんでも、新たに脳みそにほうりこむよりも、今までの知識と組み合わせるためにするのが良いということでしょうか。
アウトプットをするためにインプットをするので、人生通してインプットばかりでは確かに意味がないですが。
この辺りのことについては、和田先生の著書にも書かれているそうです。
帯を外山先生に書いてもらい、とても喜んでおられました(笑)
60歳からの勉強法 定年後を充実させる勉強しない勉強のすすめ (SB新書)
- 作者: 和田秀樹
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2018/11/06
- メディア: 新書
- この商品を含むブログを見る
私もまた読みたいと思っています。
その他、諸々
レジュメに沿った話としては以上。
ですが、和田先生、とてもよくおしゃべりになるので、ちょっとまとめきれない部分が…。
最後に、書ききれなかったポイントをさらっと触れておきます。
年齢差別禁止法
欧米では、年齢差別禁止法というものがあるそうです。
どういうものかというと、求人票に⚪︎歳まで、といった記載をすることができないというもの。
性差別はもちろん、宗教での差別も、そして年齢での差別も禁止されます。
一つ許される差別があって、それは能力差別なんだそうです。
ですから、60歳を過ぎて70歳になっても、能力で若い人に優っているのであれば、引退をする必要はない。
年齢ではなく、能力の衰えでリタイアを決めればよい。
これはそのまま活躍できる脳を維持することにもつながりますし、「LIFE SHIFT」で描かれた人生100年時代を生き抜くのにも適した考え方だと思います。
お隣韓国でもこの法律ができ、この点で日本は遅れているそうです。
年金受給年齢引き上げ等はもらえるものがもらえなくなるのではという不安を想起させますが、年齢差別禁止法は、歳をとっても活躍できる、前向きな発想だと思います。
悪玉コレステロール信仰
日本では、コレステロールというと悪いもの、減らさなきゃいけないもの、というイメージが強いのではないでしょうか。
和田先生によると、これは日本の医学では循環器系の先生が幅を利かせているからだそう。
日本の医療の現場は縦割りで、自分の専門の立場からしかアドバイスをしないので、循環器系にとってはコレステロールは悪、ということになるそうです。
脳外科からすると、コレステロールは必ずしも悪ではなく、アルツハイマー予防には良い働きをするそうです。
また、がんに対してもコレステロールはよい働きをするのだそうです。
今回のテーマではないのでそこまで詳しくは触れていませんでしたが。
糖尿病とアルツハイマー
アルツハイマーには低血圧がよろしくないとのこと。
その関係で、糖尿病患者にはアルツハイマーを発症する方が多いそうです。
どういうことかというと…。
糖尿病患者は血糖値が高くなるのを防ぐためにインシュリンを打ちます。
これで血糖値は下がるので糖尿病の症状は抑えられるのですが、一方でアルツハイマーを発症しやすい環境になってしまっているのだそう。
実際に糖尿病患者がアルツハイマーを発症する確率は、数値としてあらわれているそうです。
タバコに強い遺伝子
タバコは体に悪いと言われますが、アルコールと同じように、強い体質、弱い体質があるのではないか、とのこと。
これはまだ仮説段階ですが、喫煙している人の呼吸器系疾患での死亡率は、60歳を越えて以降、あまり上昇していないのだそうです。
この結果から見えてくることは、タバコに弱い体質の人は60歳になる前に肺がん等で亡くなってしまうのに対し、その年齢を越えて病気になっていない方は、タバコに強い体質だったからその後も死亡率は変わらない、ということ。
眉唾モノ、と思いましたが、面白い仮説です。
勉強よりテスト
これは脳の使い方にも通じるのですが、インプット学習よりもアウトプット学習の方が記憶に定着しやすいそうです。
座学ばかりさせたグループと、テスト形式を中心に行ったグループとを比較すると、 後者の方が成績が良かったのだとか。
やはり実践に即した形での学びの方が、脳に定着しやすいのでしょうね。
学力と寿命の関係
これも怖い話。
大卒の方の平均寿命と高卒の方の平均寿命を比べると、前者の方が長いのだとか。
また、情報処理能力を高い順に並べ、上位50%と下位50%とに分けて、両者の70歳死亡率を調査したところ、なんと両者の差は10%にもなったそうです。
具体的には、上位50%の死亡率は5.8%、下位50%の死亡率は16.4%、差は歴然。
情報処理能力がどのように寿命に影響してくるのかは解明されていませんが、脳の衰えが何らか関係しているということでしょうね。
まとめ的なもの
人の講演会の内容でえらく長いエントリーになってしまいました…。
でも、和田先生も「受け売り」でもアウトプットすることが大事だとおっしゃっていましたし。
最近自分の中でサイエンスはホットなテーマです。
宇宙の話や素粒子のぶっ飛んだ話も面白いのですが、人に関するもの、遺伝子や脳科学などは身近なこともあって、特に興味を持っています。
人の知識、知恵というものはどこから生まれてくるのか。
なぜ人類だけがこうも好奇心を持って、色々なものを作り、高度化させるのか。
生存そのものとは関係のないことにこれだけエネルギーを使うのは、人類だけです。
そういった果てしない問いに、今回のような講演はヒントをもたらしてくれます。
今後もこういった講演に参加したり、書籍を読み漁っていきたいと思います。