【中小企業白書を読む】多能工・マルチ人材で生産性を向上する。
今日はまた、「2018年版白書 10のポイント」で気になったポイントについて書いていきたいと思います。
先日1つ目の気になるポイント、「業務プロセスの見直し」について書かせていただきました。
白書で触れられていることは無視して、割と好き勝手書かせていただきましたが…。
多能工化・兼任化の取り組み
今回取り上げるのは、
4. 幅広い業種で多能工化・兼任化の取組が進展。生産性向上にも寄与。
というポイントです。
生産年齢人口が減少していき、今後ますます人手不足が心配されるなかで、企業はどのようにして生き残っていくか。
移民を受け入れて、人口減少に歯止めをかけるのか、受け入れずにこのまま緩やかに減少していってしまうのか。
或いは、IoTやAIなどのIT、テクノロジーを使いこなして働き手減少分に対応するのか。
このテクノロジー活用は、ひとつの「生産性向上」施策です。
ただ、低予算で成功しているIoT事例もありますが、なかなかそういったものを導入するノウハウ、人材、資金を持った企業もない。
中小企業診断士試験でもよく言われますね。
中小企業はヒト・モノ・カネという経営資源が限られている。
2次試験のテキストでは、特にカネはないものと思えくらいの制約条件となっています。
コンサルなので、アイデアを出せということでしょうけれど…。
本題に戻って、IT導入となると、ある程度まとまったコストがかかってきます。
使いこなせなせず、コストに見合った生産性向上を得られないことだってあります。
そんな中、中小企業では、まず人の生産性向上を図ろう、という流れになるのが自然。
そしてそれが「多能工化・兼任化」ということになります。
生産性ってなにを指すの?
「生産性」、最近何かにつけ使われる言葉ですが、ざっくりと、効率のことだと捉えていただいて構わないと思います。
式にすると、
生産性=アウトプット/インプット
このアウトプットとインプットには、いろんな数値が入ります。
アウトプットに利益を入れてインプットに総資本を入れれば、ROAになります。
これは総資本(=総資産)を使ってどれだけ利益を上げられたかという指標で、資本効率性を表します。
労働生産性なら、アウトプットは付加価値額*1、インプットは労働者数です。
一人当たり、どれだけの付加価値を生み出せているかという指標になります。
中小企業白書に見る多能工化取り組み実績
今回は概要資料だけでなく、中小企業白書本編にも目を通しまております。
白書では「人材活用面での工夫」による労働生産性の向上について述べています。
主に業務見直しというやつですね。
白書中、アウトソーシング、人材育成についても、同じ章のなかに記載がありますが、ここでは多能工化・兼任化について書きます。
まず取り組み状況についての調査結果を。
- 取り組んでおり、3年前に比べて積極化している(28.5%)
- 取り組んでいるが、3年前に比べて積極化はしていない(44.8%)
- 取り組んでいない(26.7%)
何らかの形で取り組んでいる企業が70%を超えていますが、なかなか積極的に取り組めていない現実が見えてきます。
業種別でみると、製造業は積極的で、取り組んでいないという回答は少ない。
それ以外の業種は、積極的という回答が少なく、取り組んでいないという回答が多い。
製造業とその他の業種とで、大きな差がでておりました。
では、多能工化は、製造業以外の業種では進めにくいのでしょうか?
いえ、そんなことはありません。
多能工化の進め方
多能工化というと製造業のイメージが強いのは否めません。
名前も多能「工」ですからね。
でも、兼任化と言えば、その他の業種でもイメージしやすくなると思います。
では、多能工化・兼任化の施策としては、どのようなものがあるのでしょうか。
白書中の調査結果から抜粋すると、
- 業務マニュアルの作成・整備
- 従業員のスキルの見える化
- 多能工化・兼任化に応じた昇給・人事評価
- 業務の棚卸・見える化
- ジョブローテーション制度の実施
- 多能工化・兼任化に向けた能力開発機会の提供
どうでしょうか?
皆様の職場でも取り組まれていることがあるのでは?
そう、それほど難しいことをやっているわけではないのですね。
マニュアル、作業手順書などはどこにでもあります。
でも、定期的にメンテナンスしていますか?
スキルの見える化としてスキルマップが作られます。
でも、作ったっきりになってませんんか?
その職場だけではなく、他の営業所、事業所ともリンクしていますか?
結局は、これまでしてきていることの見直し、深堀りをすることですね。
現場レベルでの、マニュアルやスキルマップのより詳細なメンテナンス、定義付け。
昇給・人事評価やジョブローテなどは、経営陣によるトップダウンでしかできないことです。
しかもコストもかかりリスクも大きい。
やはり草の根レベルでの活動、地道な活動が重要ですね。
多能工・マルチ人材化により得られる効果
上記のような施策を行った結果、どうなったのか?
- 従業員の能力向上
- 全体の業務平準化による、従業員の負担の軽減
- 繁忙期・繁忙部署における業務処理能力向上
- 従業員間のコミュニケーションが増え、職場の活性化につながった
- 担当者不在時の対応力が向上し、休暇取得が容易になった
すばらしい!!
絵にかいたような効果ですが、大多数の企業が、効果を実感しているようです。
従業員の負担の軽減、業務処理能力向上、これらはまさに生産性向上です。
負担が小さいということは、アウトプットは変わらないまでも、インプットを小さくすることがでたということ。
割り算、分数では、式の分母が小さくなれば、得られる数字は大きくなりますよね。
アウトプット100 / インプット500 = 20%ですが、
アウトプット100 / インプット250 =40%です。
多能工化の取り組みが、しっかりと生産性向上に結び付いたという調査結果だということがわかります。
能力向上や平準化は狙った効果ではありますが、コミュニケーション増加や休暇取得が容易になるというのも、また大きな副産物ですね。
最も基本的で当たり前のことではありますが、コミュニケーションの増加そこが、あらゆる施策の効果に直結する変数だと思っています。
周知、理解、共有、共感、口コミ、あらゆることはコミュニケーションなくしては広められません。
さて、平準化と言えば、以前現場の方とお話していた際、「平準化」と「標準化」を混同している方が多くて驚いた、という経験があります。
生産に波があり残業が発生していると言う状況で、何らかの施策で平準化したいね~という会話の中で。
「え?平準化はできてるよ、手順書整備してるし。」という。
これは標準化のことですね。
文書化、マニュアル化して、誰でも同じレベルのことができるようにするのが標準化です。
平準化はその先にあるものです。
マニュアルにより多能工化が進めば、閑散期には忙しい他部署応援に行けるので、波が平準化される、という具合です。
つまり、標準化したものをお隣さんとどんどん共有し、多能工・マルチ人材化することで、平準化施策に繋がっていくのですね。
共有、まさにコミュニケーションですね。
まとめ
今回は以上です。
ここまで良いことばかり見てきましたが、白書中には「課題」も書かれていました。
時間や人材に関する課題は、中小企業あるあるですが、「業務負担増加を懸念する従業員からの反発」というものもありました。
PDFの白書のその部分を見ながら、例によってiPad Proでメモを書きなぐっていました。
理解を得るための施策、トップによる
- 会議の場での周知
- ビジョンミーティング
- 社内報での周知
ありきたりではありますが、いつだって同じです。
会社施策をどうやって組織の末端まで周知徹底するか、「知る」ではなく、「理解」するか。
しっかりと腹落ちして、自分事化していなければ、従業員は今目の前にある仕事を優先してしまいます。
トップダウンによる明確な方向付けが、施策を成功させる上での最重要事項ですね。
*1:付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費