「君主論」現代に通用する血の通ったリーダーシップ論。
「君主論 - 新版」を読んだ後に、補完的に「1分間君主論 差がつく実学教養」を読みました。
「君主論」、マキャベリズムって?
「君主論」なんて読んだことがないし、著者のマキャベリもあまり知らないという方もいらっしゃるでしょう。
どちらかというとマキャベリズムやマキャベリストという言葉のほうが知られているかもしれません。
目的の為には手段を択ばない、冷徹な人に対して、「あの人はマキャベリストだよね」というふうに使いますね。
マキャベリズム、マキャベリストがこのような悪いイメージの言葉であるならば、マキャベリの書いた「君主論」も悪の教典なのでしょうか?
でも、現代でも経営者、リーダーの必読書としての呼び声が高いというのも事実。
それでは自分で読んでみよう、ということで、この名著に挑みました。
「君主論」、聞くと見るでは大違い
読んだ感想としては、しっかり血が通っているし、現代に通じることばかり。
なるほど読んでみれば、現代でも必読書である理由は明白です。
この本を読むには、まずもって時代背景と、この本が書かれた理由を知らなければなりません。
でないと、「君主論は目的の為ならば手段を択ばない」という誤解をしてしまうことになります。
折角の名著を読み誤って、自分の糧にできないのはもったいないことです。
マキャベリの生きた時代とは
マキャベリが書いていることは、歴史を振り返ってどうだったか、という研究と、その結果です。
そしてこの書が生まれた時代背景として、教皇やメディチ家、ヨーロッパ諸侯の争いが絶えない時代だったということ。
また、「1分間君主論」でも指摘されていますが、「君主論」には世襲の君主国には触れられていません。
どのような君主国があるかについて書かれた第2章で紹介されるのみ。
つまり、君主がいつ寝首を掻かれるかわからない、交代するかわからない時代背景があって、そうならないためのリーダーシップ論として書かれたものということ。
広く一般のリーダーに向けて書かれたものではないのですから、「目的のためなら~」と言われる厳しさにも納得です。
「君主論」で再起を果たしたマキャベリ
マキャベリは1469年、フィレンツェに生まれました。
外交官としてキャリアを積んでいましたが、1513年、政変に巻き込まれ失脚しています。
この隠遁生活の中で研究し、書き上げたのが「君主論」です。
そして1516年、先代が死に、ロレンツォ・デ・メディチが新たな僭主となりました。
そしてこのロレンツォに謁見が許されたときに、献辞を添えて献上したのがこの「君主論」。
マキャベリは隠遁生活を単に研究に捧げていたのではなくて、来るべき日に備えていたのかもしれませんね。
こうして、どうすれば君主が国家を維持できるかを、君主目線で書かれた「君主論」が世に出ました。
そして時を経て、多くの人に読み継がれて今に至ります。
時代に合ったリーダーシップ論
このような時代背景などを考慮せずに読むと、
「加害行為は一気にやってしまわなくてはいけない」
「愛されるより襲られる方が安全である」
などという言葉の冷徹さにばかり目が行ってしまうのだと思います。
でも、考えてみてください。
君主がへぼくて、ころころと権力者が変わる世界を…。
そのような世の中では、国民は平和を享受することはできませんね。
権力が入れ替わるタイミングでは、多く人の命が奪われることになりますし。
君主が国をしっかりと統治してこそ、国民は安心して日々暮らすことができる。
理想は大事ですが、理想ばかり口にしてもいつのまにか実現するものではありません。
そのために軍を強くし、国民の性質を理解し、果敢に行動する必要がある、ということをマキャベリは述べているのです。
現代にも通じる「君主論」
さて、かつて大いに読まれたとはいえ、現代に通じるものかどうかは別の話。
風刺小説として書かれた「ガリヴァー旅行記」も、時代が変わると童話として読まれるようになった、という話をどこかで読みました。
読み継がれてはいるものの、時代が変われば著者の意図とは違う読み方をされたり、理解されなくなることもあります。
「君主論」は、どうでしょうか。
私が力説するまでもなく、今でも変わらず通じるリーダーシップ論ですね。
最近ではサーバントリーダーシップ、羊飼い型リーダーシップが人気のようです。
強いリーダーではなく、弱いリーダー(悪い意味ではないですよ)を欲する時代です。
そのような時代でも、日々競争にさらされる業界、社内の派閥争い、そこで勝ち抜いていくためには、「君主論」は多くのヒントをもたらしてくれるでしょう。
「君主論」はマキャベリの洞察力
この本を読んで面白いと思ったのは、マキャベリの人間に対する洞察力です。
愛情をかけてくれる人を容赦なく傷つけるだとか、父親の死はすぐに忘れるが、財産を奪われたことは忘れない、とか。
この洞察力が冷徹さを感じる要因とも思いますが…。
そんなまさか、と思うのですが、「君主論」では歴史からの引用が多く、実際にそうであったという現実を突きつけられるため、読み進めていくうちに納得してしまうのです。
見抜いて、しっかりと根拠を突きつけ、正当性を確保する。
これはリーダーのみならず、ビジネスマンであればどのような立場であっても身に付けたいスキルですね。
あとがき的なもの
マキャベリについて調べると、「あれ?佐藤優氏にそっくりだな」と思うことでしょう。
マキャベリは外交官であり、失脚、逮捕され、「君主論」ののちは著述家。
佐藤優氏もほぼ同じ足跡をたどっていますね。
なんて思っていたら、中公文庫の新版の解説を佐藤優氏が書いていました。
ご本人もマキャベリに対しては特別の感情を抱いているようで。
そりゃそうですよね。
失脚、逮捕からの復活に至る苦難を乗り越えたということは、特別の感情を抱かずにはいられないでしょう。
「君主論」はもちろんのこと、このマキャベリの生き方そのものからも学ぶべきことは多そうです。
「1分間君主論」について触れるのを忘れていました(笑)
論点整理、ポイント解説として読むと、理解が深まります。
また、以前のエントリーでリーダーシップについて書いたものも併せて、是非。