『あなたの知らない脳』脳はあなたの意識から自立している。
脳のコントロールはno control!!
そんなおやじギャグから入る本エントリー。『あなたの知らない脳──意識は傍観者である』を読み終えました。
難しいけど興味深い分野、それは脳科学、心理学です。自分自身のことを深く知りたいと思うと、この二つの分野にたどり着く気がします。
『あなたの知らない脳』を知ったきっかけは、まず本書の著者であるデイヴィッド・イーグルマン(名前がめちゃくちゃカッコいい!)をTEDで見たことでした。
この動画は日本語字幕があるので、是非見ていただきたいです。動画では、「人の視覚は脳の中を流れる電気的信号でしかない」という主張の下、聴覚障碍者に対し音に反応し振動するチョッキを着てもらい、その振動パターンから言語を認識できるか、という実験の結果を報告しています。
脳は電気信号を言語に置き換える。
その結果は驚くべきもので、生まれつきの重度の聴覚障碍者が、たった5日後には背中で振動を感じ、単語に変換できるまでに至りました。イーグルマンは、このチョッキを3ヶ月も着用すれば、盲目の人が点字に指を滑らせた時のように、直接的に、瞬時に言葉理解できるようになると言います。
つまり、人間の脳というのは、電気信号を紐解いて意味を見出すという、とても複雑で高度なことを瞬時に成し遂げる能力を持っているのだと。数あるTED動画の中でも有数の、興味深いテーマ、研究、報告でした。
そして、これを見てしばらくしてから、何気なしに見ていたサイトの広告で、『あなたの知らない脳』がレコメンドされていました。こんなに簡単に広告がパーソナライズされるものかわかりませんが、お勧めされたのは事実。
そのイーグルマンの本だとすぐには気が付かなかったのですが、表紙が気に入って詳細を見ていった結果、あのTEDTalkの人だ!と、気付きました(笑)。
科学の研究成果は社会にどう活かされるか
インターネットやAIといったテクノロジーは、研究結果が社会に活かされるイメージがしやすいですよね。私たちが毎日触れているパソコンやスマホに直結します。仕事でもプライベートでも、インターネットのない生活など考えられません。
ですが、脳科学というと、どのように社会実装されたり、どのように役に立つのか、あまり創造が付きません。
そうなると、本で読んだ知識も、「面白かったね」で終わってしまいます。それではとてももったいないし、しばらくすれば忘れてしまいますよね。
そういう意味でも、本書は研究結果を踏まえた社会的な問題提起がなされているので、有意義ですし、机の上でのお話ではないなと感じます。本書では、2/3を研究結果の報告に割き、残りの1/3は研究結果を踏まえて、行動が非難に値するかどうか問うことは的外れだ、という主張を展開します。
本書の研究結果では、人間は自分の意思で行動しているようで、実は意識が介在する前に脳が全て処理してしまっている、つまり人間は自分の行動をコントロールできていないと言っています。
人間には科学的にも自由意志と言えるようなものはなく、それであれば人間の行動の責任はどこにあるとするのか。行動を非難に値するかどうかを問うことは意味がないのではないか、と。
そう考えると、世の中がまた違って見えてきます。昔から知っている言葉の意味も、深みを持ったり、少し捉え方が変わってきたりしますよね。「罪を憎んで人を憎まず」、「魔が差した」、これらの言葉にも、なにか科学的根拠が与えられたような思いがします。
寛容な社会、というものを提唱しているわけでもないかもしれません。でも、罪を犯すということ自体がその人の本性ではないし、その人自身を非難の対象にするべきではないというのは、少し心が軽くなりますね。
まとめ的なもの
科学というと、やや冷たいものをイメージします。人類の歴史の中では、今でこそ利便性向上のために使われている技術も、軍事から転用されたものも多くあります。このインターネットだって軍事からの転用です。
SF小説では「行き過ぎた科学」というテーマのものが多くあります。AIが仕事を奪うならまだしも、ターミネーターのような世界になったら…。その根底には、科学を用いて持つべきでない力を身に付けようとしている人類への危惧があります。
そのような側面を持つ科学にあって、本書が提示する研究結果は、人間により人間らしくあるようにと問いかけているように思いました。
あなたの知らない脳──意識は傍観者である (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: デイヴィッド・イーグルマン,大田直子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/09/08
- メディア: 文庫
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