『ファクトフルネス』データを見誤って勝手に悲観的になる私たち。
世界を正しく読み解こう
今回読んだのは、TEDトークに出演したこともあるハンス・ロスリングの著書、『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』です。
世界で100万部越えの大ベストセラーとのことですが、日本でもものすごく人気で、どこの書店でもビジネス書の売れ筋ランキング5位以内に入っています。
少し前まではどこの書店に行っても、ビジネス書コーナーの1位でしたね。
世界中でテロが起き、紛争が始まり、いままでになかった自然災害も起きている。
テレビなどでニュースを見ていると、あたかも世の中は悪い方向に進んでいるように感じてしまいます。
でも、それは本当に正しい認識なのでしょうか。
『ファクトフルネス』では、そんな世の中の認識にデータをもって立ち向かいます。
人間はチンパンジーよりわかってない
『ファクトフルネス』は、イントロダクションでいきなり読者にクイズを投げかけます。
見たところ、とても単純そうな13問の問題です。
貧困、教育、環境、エネルギー、人口問題、これらに関する問題で、三つの数値のうちどれが正しいかを答える問題です。
私も答えてみましたが、やっている最中はほとんど悩むことはありません。
でも、答え合わせをした結果…なんと13問中6問しか正解できませんでした。
ただ、5割を切るような散々な正解率でも、著者が行ってきた1万2千人の平均よりはマシとのことで、安心しました。
13問目は問題として問われ始めたのが最近なので正解率も高いのですが、これを除いた12問の平均正解数は、なんと2問…。
私は最後の正解分を差し引いて5問正解です。
本書では、文字の読めないチンパンジーでも三分の一の4問は正解するとしています。
つまり、多くの人はチンパンジー以下、ということになりますね…。
人間の本能は思い込む
我々は日々ニュースを見て、新聞や雑誌、本を読んで情報を得ているはずです。
それなのになぜ、これほどまでに正解率が低いのか。
これが本書のテーマです。
正解率が低いのは、もちろん本当にチンパンジー以下だからというわけではありません。
人間には本能による10の思い込みがあり、その思い込みがデータを見誤らせる、というのが著者の主張です。
分断本能、ネガティブ本能、直線本能等々、詳しくは読んでみてくださいね。
このような思い込みは知識人でも陥りやすく、そのために、専門家やジャーナリストが誤った情報を悪気もなくばら撒いてしまっているという現実も示唆しています。
ただ、本書で取り上げるデータは、独自にリサーチした結果などではなく、国連などの国際機関が公表しているありふれたデータです。
最も有力で信頼のおける機関ですから、このデータに書いてあるようなことは、専門家なら当たり前に知っているはずのこと。
なのに、その道の専門家が集まる会議で12問の質問を行うと、一般人と変わらないような正解率なのだそうです。
思い込みというのはかくも恐ろしいものなのですね。
どのようにして正しく見る習慣を身に付けるか
副題にある通り、データを基に世界を正しく見る習慣を身に付ける必要があります。
まずは噂や直感ではなく、正しいデータを基に考えること。
データが最新のものにアップデートされていること。
そのうえで、データを一つの方向から見るのではなく、多面的に見ること。
これらを習慣づけることで、10の思い込みから解放されて、正しく世の中を見ることができるようになります。
今の常識は、テストの結果の通り、正しくありません。
20年前のデータに基いたもので、これはアップデートされる必要があります。
最新のデータを見れば、それほど世の中は悪くないということがわかります。
『ファクトフルネス』は、学び・気付きの多い本ですが、最もシンプルで大切だと感じた学びは「悪いことが起きているということと、世界が良くなっているということは両立する」ということです。
ニュースで社会問題が大きく取り上げられていたとしても、ほとんどの場合、昔と比べると、全体と比べると、良い方向に向かっているのです。
あたかも悪くなっていると言われていることについて、本書では「減り続けている16の悪いこと」と「増え続けている16の良いこと」といった形でデータを示しています。
ミクロの視点では悪いことが起きていても、マクロの視点では世界は良くなり続けているのです。
悪い悪いと悲観する前に、正しいデータを見ること、過去と現在を正しく比較すること。
たったそれだけで、世界の見え方は変わりますし、世界が良く見えると、きっと幸福感も増すでしょうね。
まとめ的なもの
本書の示唆するところは、データを正しく見る習慣をつけるだけにとどまらず、短絡的な思考や行動の抑制にもつながります。
ただのビジネス書として最新データを読み解くのみならず、人間は思い込みの生き物だと知ることで、あらゆる場面で我々を自己抑制的たらしめます。
思い込みのいくつかは、人間の脳の最も原始的な部分にあって、何十万年もかけて刷り込まれてきた本能に基づきます。
これらの本能があるということを知ってなお簡単に抗えるものではありません。
それでも、少しでもそのような本能を抑え自律的であるためには、物事を正しく見ることを、日々の習慣としていく必要があるのでしょうね。
また余談ですが、本書の翻訳を手掛けている関美和さんという方は、先日紹介した『EQ 2.0』や、ピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』の翻訳者でもあります。
なにも気にも留めずに購入した本ですが、とても短い間に同じ翻訳者の本を3冊も手に取るとは、何か運命的なものを感じます。
Amazonで検索してみると、他にも有名なベストセラービジネス書を手掛けているようです。
ビジネス書の翻訳と言えば村井章子さんをよく目にします。
訳者で本をチョイスしてみるのも悪くないかもしれませんね。
また機会があったら、試してみようと思います。
FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
- 作者: ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド,上杉周作,関美和
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2019/01/11
- メディア: 単行本
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