『サブスクリプション』で顧客志向のビジネスモデルを実現する。
『サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル』、読了しました。
ビジネスモデル、マーケティングのトレンドとなっているキーワードは沢山ありますが、その中でも「サブスクリプション」はかなり気になっていました。今回そのキーワードズバリそのものがタイトルになったのが本書。
サブスクリプションという概念や社会への実装状況等、本書ではとても分かりやすく説明してくれています。
サブスク化する世界
サブスクリプションモデルは、ビジネス的にも、個人的にも、最近とても気になっているテーマです。ビジネスでも個人でも、この形態のサービスを一つは利用していると思います。
会社では、サービス名はあえて伏せますが、ワークフローシステム、勤怠システム、経理システム、Officeオフィスアプリをサブスクリプション形態で契約、利用しています。
個人で言えばAmazonの電子書籍サービスのKindle Unlimited、音楽配信サービスのAmazon Music、ニュースアプリのNewsPicks、マイクロソフトのOffice365などをサブスクリプション形態で利用しています。
Office、音楽、書籍、アプリ、ゲーム、クラウドストレージ、この辺りがサブスクリプションで提供されているサービスで、すぐに思い付くところでしょうか。ですが、今では飲食店でも見かけますし、トヨタもそのようなサービスを始めるようです。最後にニュース記事のリンクを貼っておきましたが、家具業界でもサブスク化が進んでいます。
このサブスクリプションという契約形態も、つい数年前まではあまり聞かなかったもの。似たようなものとしては新聞の定期購読がありましたね。でも、サブスクリプションと新聞の定期購読には大きな違いがあります。そのあたりも本書を読むと理解できます。
サブスクリプションといえば『サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方』の方が以前から出版されております。私も先月読みましたが、個人的には今回読んだ本の方がしっくりときましたね。どちらもサブタイトルに「顧客」が入っていて、顧客中心のマーケティングメソッドだということがわかりますね。
NewsPicksで本書の著者の記事がピックされていましたので掲載します。
さて、本書について、第Ⅰ部では、サブスクリプションがビジネスモデルを変えている現状を、いくつかの業界について紹介しています。第Ⅱ部では、サブスクリプションを自社に適用する手順、オペレーションについて説明しています。
このエントリーでは、第Ⅰ部で書かれていることについて触れていきます。さぁ、サブスク化する世界を見ていきましょう。
サブスクリプションモデルとは何か
まずサブスクリプションとは、ざっくりと、誰にでもわかるように一言でいうならば、定額課金制です。イメージしやすい例は、新聞や雑誌の定期購読をイメージしていただければと思います。ですが上記の通り、より本質的に見ると、これまでの定額課金と現代のサブスクリプションは大きく異なる点があります。
本書のオビを見ると、こう書いてあります。
サブスクリプションは単なる課金形態の変更ではなくビジネスモデルの変革である
サブスクリプションという概念の、支払いの部分が定額課金制というだけで、定額課金制とサブスクリプションがイコールというものではありません。そこには、マーケティングの思想、顧客が手にするもの、テクノロジー、この三つの要素が、新たに加わっています。以下、それぞれについて説明していきますね。
サブスクリプションモデルのマーケティング思想
まずはマーケティングの思想。サブスクリプションモデルは「顧客志向」が前提です。これまでの定額課金制、例えば新聞や雑誌は、つくった新聞や雑誌を、ただ配送するだけ。新聞社が川上にあって、ユーザーは川下という、従来型のマーケティングの流通モデルです。こういったものは「製品志向」といいます。
最近、モノではなくコト、というようなフレーズを耳にしませんか?シーズからニーズへ、とか。これら「モノ」、「シーズ」は製品のことです。「コト」、「ニーズ」は、製品が持つ本質的な機能とか、ユーザーの本来の目的のことです。
この顧客志向の視点に立てば、自社で開発した製品がどれだけ優れた機能を持っていたとしても、顧客の本質的なニーズを満たしていなければ意味がないということになります。ニーズは流動的ですので、顧客のニーズを常に汲み取って、対応していく必要があります。
いつまでも、毎日、毎月、同じ新聞や雑誌を送り届ければよい定期購読とはそこが異なります。
(もちろん、新聞や雑誌が悪いと言っているわけではないですからね)
サブスクリプションモデルで顧客が手にするもの
サブスクリプションで顧客が手にするものは、製品ではなく、サービスになります。所有ではなく利用する権利、 これもサブスクリプションと定期購読の違いです。
車も購入して所有する時代から、そのうちシェアする時代になると言われていますよね。これもサブスクリプションです。車という製品、モノに目が行ってしまいますが、手にするのは利用する権利であって、所有権を手に入れることはありません。
ここでもやはり、モノからコト、という変化があります。車が欲しいのではなくて、移動手段が欲しいだけなので、わざわざ所有までしなくてもよいのです。使いたいときに使えさえすればよく、ローンを組んだり保険に入ったり税金を払う煩わしい思いをしたくないというのもニーズです。
そういった煩わしさは企業側が引き受けて、顧客は本質的なニーズに合ったサービスを利用することができるようになります。サブスクリプションは顧客中心なので、企業と顧客は必ずwin-winになるはずです。
サブスクリプションモデルのテクノロジー
サブスクリプションの根底にあるテクノロジーは、インターネット、クラウドです。これには二つの意味があります。
一つ目は、Dropboxのように、インターネット上で使えるサービスということ。クラウドストレージはインターネットがあって初めて存在しうるサービスです。最初に挙げたワークフローや勤怠管理も、インターネットがあるから紙の申請書類やタイムカードから移行できます。
もう一つは、顧客データがインターネットを通じてクラウド上に蓄積されるということ。これはマーケティング的な意味でとても大事なことです。サブスクリプションモデルが顧客志向を目指すにしても、どうやって顧客のニーズを汲み取るのか。それを可能にするのがインターネット、クラウドです。
これももはや当たり前のことですが、例えばGoogleで仮面ライダーを検索するとします。すると、別のサイトでニュースなどを見た際に、Googleの広告に仮面ライダーのフィギュアなどが掲載されていた、という経験はないですか?
もちろん仮面ライダーでなくても、深キョンを検索したら写真集が、アンチエイジングを検索したらセサミンや青汁が広告表示された、ということはありますよね?我々がネット上で検索して閲覧しているサイトのデータは、全てGoogleに知られていて、広告もパーソナライズされているのです。
同じように、ある企業のサブスクリプションサービスを利用すると、利用の傾向が企業側に流れ、より最適なプランを提案してきたり、新たなサービスが追加されたりするのです。
我々がサービスを利用する中で、情報が送信され、蓄積され、分析され、課題は解決されて我々が受けるサービスの質の向上につながっていきます。
サブスクリプションがこのような顧客志向を実現できるのも、インターネット技術があってこそなのです。
あらゆる業界でサブスク化が進む
第Ⅰ部では、 このようなサブスクリプションが、あらゆる業界で採用されている現状を紹介しています。
小売、メディア、モビリティ、新聞・出版、IT、そして製造業まで。本当に、あらゆる業界でサブスク化が進んでおり、驚くばかりです。
IT関連のサブスク化
サブスクリプションといえばIT関連ばかり思い浮かべてしまいますが、これも最初はなかなか受け入れられなかったようですね。AdobeもMicrosoftも、昔は大きな箱の中に、小さな説明書とCDやDVDが入って売られていました。ソフトウェアの箱って本当に無駄に大きくて邪魔なんですよね…。
コンピュータなんて合理化、効率化の申し子のようなものなのに、販売するときはあんな無駄にでかい箱に入れられて…。最近ではダウンロードコードが印刷されたカードが売られていたりしますが、未だにその横には大きな箱が並べられていたりして、前時代的だなぁと思ってしまいます。
製造業のサブスク化
製造業でサブスクリプションというと、イマイチ想像ができませんよね?でも、実はとても多く、そして身近だったりします。コマツのスマートコンストラクション技術を利用したコムコネクトというクラウドサービス。各複合機メーカーのメンテナンスサービス。共通するのは重機や複合機にセンサーが組み込まれていて、そのデータがクラウド上に蓄積される、又はメンテナンスセンターにトナーの交換があったことを知らせる仕組みになっています。
つまり、製造業においてはIoT技術が、サブスクリプションモデルを導入するのに用いられるということですね。
IoTと言えば、私はとても良い取り組みをしている会社を知っています。愛知県の旭鉄工という会社です。ここの社長の講演会を見に行き、会社の研修でも、社長をお招きして再度お話伺いつつ事例研究の対象とさせていただきました。
以前ブログでも書かせていただいております。
製造業として、自社の生産性向上のためのIoTを、パッケージに頼らず自前で構築した会社です。そしてそれがあまりにうまくいったので、新たに事業会社として起ち上げ、サブスクリプションモデルで外販しています。
製造業も製品、モノを売るのではなく、製品を通してサービスも売ることができるのです。工夫次第では旭鉄工のように新たなビジネスモデルを作り上げることだってできるのです。
卸売業の例示がないが…
さて本書では多くの業界でサブスクリプションモデルを取り入れられることが紹介されました。が、卸売業がありません…。弊社は売上構成比上は卸売業ですので、本書で卸売業が取り上げられていなかったのは残念…。
私自身、卸売業でのサブスク化だけは、イメージがわかなかったので、その点も本書で書かれていたら~と思っていたのですが…。
商社、卸売業といった間に入る商売ではどういったところでサブスクリプションモデルを導入できるでしょうか。商材は顧客によってまちまちですし、一つの顧客に対しても、複数の仕入先が存在します。
マスカスタマイズはサブスクリプションの要素の一つ。完全な顧客仕様、カスタマイズが要求される会社では、サブスクリプションは難しいのでしょうか。ここまで「なんにでも!」という感じで書いてきたので、自社の業種での適用ができないのは…うーん、という感じ。
折角なので、本書で紹介されていませんが、また自分で考えてみることにします(笑)。キーワードとしては、顧客志向、サービス化、インターネット、これにプラットフォームと定額(定期利益)を加えて。
卸売業のサブスクリプション化ができれば、私も事業部長に昇進です。報告できる日をお楽しみに(笑)。
まとめ的なもの
こうして本を読んで、改めて周りを見回してみると、本当に多くのものがサブスクリプションモデルを採用していて、知らぬ間にサブスクリプションという大波に飲み込まれてしまっていたことに気付きました。
昔は音楽や映画DVDは、買うかレンタルしていました。今でもパソコンのiTunesには、たくさんの音楽が残っています。これも、音楽ならAmazon Music、映画はAmazon Primeという定額サービスで、所有せずに楽しんでいます。
ユーザーにとっては、定額というのはなによりもわかりやすく、12ヵ月で分割されるので安く思えてしまうもの。たくさん加入すると痛い目を見ることになりますが、毎月の収支を組みやすくなるので、社会人だけでなく、学生にも安心です。
そのうえで、契約しているサービスがいつのまにかアップデートされ、便利になっていく。いままでこんなサービスがあったでしょうか。まさに顧客志向ですね。
こうしてサブスクリプションというブラックボックスの仕組みが分かってくると、いかによいサービスを享受しているのかも理解でき、現代というのは本当に楽しい時代だなと感じますね。
サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル
- 作者: ティエン・ツォ,ゲイブ・ワイザート,桑野順一郎,御立英史
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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最後に、最近のNewsPicksでピックされていたサブスクリプション関連記事を貼り付けておきます。サブスクってほんとに幅広いですよね。